そうだ、彼女は僕に野井戸の話をしていたのだ。
そんな井戸が本当に存在したのかどうか、僕にはわからない。
あるいはそれは彼女の中にしか存在しないイメージなり記号であったのかもしれない――あの暗い日々に彼女がその頭の中で紡ぎだした他の数多くの事物と同じように。
でも直子がその井戸の話をしてくれたあとでは、僕ほその井戸の姿なしには草原の風景を思いだすことができなくなってしまった。
実際に目にしたわけではない井戸の姿が、供の頭の中では分離することのできない一部として風景の中にしっかりと焼きつけられているのだ。
僕はその井戸の様子を細かく描写することだってできる。
井戸は草原が終って雑木林が始まるそのちょうど境い目あたりにある。
大地にぽっかりと開いた直径一メートルばかりの暗い穴を草が奥妙に覆い隠している。
まわりには柵もないし、少し高くなった石囲いもない。
ただその穴が口を開けているだけである。
縁石は風雨にさらされて奇妙な白濁色に変色し、ところどころでひび割れて崩れおちている。
小さな緑色のトカゲがそんな石のすきまにするするともぐりこむのが見える。
身をのりだしてその穴の中をのぞきこんでみても何も見えない。
僕に唯一わかるのはそれがとにかくおそろしく深いということだけだ。
見当もつかないくらい深いのだ。
そして穴の中には暗黒が――世の中のあらゆる種類の暗黒を煮つめたような濃密な暗黒が――つまっている。

对了,她聊起一口野井。
我不知道是否真的有那一口井,或许那只是存在她脑海中的一个形象的暗号而已——犹如那段晦暗的日子里,她在脑海中编织出的许多事物一样平常。
然而,自从直子提过之后,我每想起草原的风景,便会随着想起那口井来。
我虽未曾亲眼目睹过,但在我脑中它却和那片风景紧密地烙在一块儿,是不可分割的。
我乃至能够详细地描出那口井的样子容貌。
它就位在草原和杂树林之间。
蔓草奥妙地遮住了这个在地表上横开约直径一公尺的黑洞。
四周围既没有栅栏,也没有赶过的石摒。
只有这个洞大大地张着口。
井缘的石头经由风吹雨打,变成一种奇特的白浊色,而且到处都是割裂崩塌的痕迹。
只见小小的绿蜥蜴在石头的缝隙里飞快地续进续出。
横过身子去窥伺那洞,你却看不到什么。
我只知道它反正是又胆怯又深邃,深到你无法想像的地步。
而个中却只满盈着阴郁——殽杂了这天下所有阴郁的一种浓稠的阴郁。

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「それは本当に――本当に深いのよ」と直子は丁寧に言葉を選びながら言った。
彼女はときどきそんな話し方をした。
正確な言葉を探し求めながらとてもゆっくりと話すのだ。
「本当に深いの。
でもそれが何処にあるかは誰にもわからないの。
このへんの何処かにあることは確かなんだけれど」

“是真的——真的很深唷!
”直子谨慎地措词。
她说话常常是那种办法。
一壁谨慎地选词,一壁逐步地说。
“真的很深。
不过,没有人知道它的位置。
但它一定是在这一带的某个地方。

彼女はそう言うとツイードの上着のポケットに両手をつっこんだまま僕の顔を見て本当よという風ににっこりと微笑んだ。

说罢,她将双手插进斜纹软呢上衣的口袋里,微笑地看着我,一副负责的表倩。

「でもそれじゃ危くってしようがないだろう」と僕は言った。
「どこかに深い井戸がある、でもそれが何処にあるかは誰も知らないなんてね。
落っこっちゃったらどうしようもないじゃない か」

“那不是太危险了?”我说道。
“在某个地方有一口深井,没有人知道它在哪儿。
万一掉进去不就完了?”

「どうしようもないでしょうね。
ひゅうううう、ボン、それでおしまいだもの」

“是呀!
咻——砰!
然后统统结束!

「そういうのは実際には起こらないの?」

“会不会真有这种事呀?”

「ときどき起こるの。
二年か三年に一度くらいかな。
人が急にいなくなっちゃって、どれだけ捜してもみつからないの。
そうするとこのへんの人は言うの、あれは野井戸に落っこちたんだって」

“常有啊!
大约每两年或三年就会发生一次呢!
人就这么莫名其妙地不见了,怎么找都找不到。
以是这一带的人就说了,说是掉进那口深井去的。

「あまり良い去世に方じゃなさそうだね」と僕は言った。

“这彷佛不算是一种好去世法咧!
”我说。

「ひどい去世に方よ」と彼女は言って、上着についた草の穂を手う払って落とした。
「そのまま首の骨でも折ってあっさり去世んじゃえばいいけれど、何かの加減で足をくじくくらいですんじゃったらどうしようもないわね。
声を限りに叫んでみても誰にも聞こえないし、誰かがみつけてくれる見込みもないし、まわりにはムカデやクモやらがうようよいるし、そこで去世んでいった人たちの白骨があたり一壁にちらばっているし、暗くてじめじめしていて。
そして上の方には光の円がまるで冬の月みたいに小さく小さく浮かんでいるの。
そんなところで一人ぼっちでじわじわと去世んでいくの」

“很惨哩!
”她说道,一边用手拂去黏在上衣上的草屑。
“如果说就这么摔断脖子去世了也就算了,万一只是挫了腿,那可就糟了。
纵然扯破喉咙也没有人会听见,没有人会找到你,蜈蚣、蜘蛛在一旁蠕动着,从前不幸去世在那儿的人的骨头零散散布,四周阴阴湿湿地。
只有小小的一道光圈彷佛冬月一样平常浮在头顶上。
你就得一个人孤单地逐步去世去!

「考えただけで身の毛がよだつた」と僕が言った。
「誰かが見つけて囲いを作るべきだよ」

“光是想就让人汗毛直竖哩!
”我说。
“该当要找到它的位置,然后做一个石摒才对!

「でも誰にもその井戸を見つけることはできないの。
だからちゃんとした道を離れちゃ駄目よ」

“可是谁也没法找呀!
以是呀!
不能走得离大马路太远唷!

「離れないよ」

“不会的。

直子はポケットから左手を出して僕の手を握った。
「でも大丈夫よ、あなたは。
あなたは何も心配することはないの。
あなたは暗闇に盲滅法にこのへんを歩きまわったって絶対に井戸には落ちないの。
そしてこうしてあなたにくっついている限り、私も井戸には落ちないの」

直子从口袋里伸出左手,握住我的。
“不过你没紧要。
你不必担心啦。
就算在黑夜里到这儿来「盲盲」然地走上一遭,你也绝对不会掉进井里的。
以是说,我只要紧随着你,就不会掉下去了。

「絶対に?」

「絶対に」

「どうしてそんなことがわかるの?」

“绝对?” “绝对!
” “你怎么知道?”

「私にはわかるのよ。
ただわかるの」直子は僕の手をしっかりと握ったままそう言った。
そしてしばらく黙って歩きつづけた。
「その手のことって私にはすごくよくわかるの。
理屈とかそんなのじゃなくて、ただ感じるのね。
たとえば今こうしてあなたにしっかりとくっついているとね、私ちっとも怖くないの。
どんな悪いものも暗いものも私を誘おうとはしないのよ」

“我知道呀!
便是知道嘛!
”直子牢牢地握住我的手,一边说道。
然后,有好一段韶光默默地走着。
“那种事我立时就能知道。
没有什么情由,只是觉得而已。
像本日晚上我一贯随着你走。
就一点儿也不害怕。
不管是多坏多阴郁的东西都领导不了我!

「じゃあ話は簡単だ。
ずっとこうしてりゃいいんじゃないか」と僕は言った。

「それ――本気で言ってるの?」

「もちろん本気だ」

“那还不大略?你就一贯随着我好了!
”我说。
“嗯——你是至心的?”

直子は立ちどまった。
僕も立ちどまった。
彼女は両手を僕の肩にあてて正面から、僕の目をじっとのぞきこんだ。
彼女の瞳の奥の方ではまっ黒な重い液体が不思議な図形の渦を描いていた。
そんな一対の美しい瞳が長いあいだ僕の中をのぞきこんでいた。
それから彼女は背のびをして僕の頬にそっと頬をつけた。
それは一瞬胸がつまってしまうくらいあたたかくて素敵な仕草だった。

“当然是至心的罗!
” 直子忽地停下脚步,我也随着停了。
她将两只手搭在我肩上,从正面凝望着我的眼睛。
在她的明眸深处,一洼浓黑的液体聚成一种奇妙的图形。
这么一对俏丽的眼珠盯了我好久好久。
然后她踮起脚,轻轻地将她的脸颊贴上我的。
这动作棒透了,暖得教人感到胸口一阵紧缩。

「ありがとう」と直子は言った。

“感激!
”直子说道。

「どういたしまして」と僕は言った。

“不客气!
”我说。

「あなたがそう言ってくれて私とても嬉しいの。
本当よ」と彼女は哀しそうに微笑しながら言った。
「でもそれはできないのよ」

“你能对我说那些话,我太高与了。
真的!
”她哀切地边微笑边说道。
“不过,那是不可能的。

「どうして?」

“为什么?”

「それはいけないことだからよ。
それはひどいことだからよ。
それは――」と言いかけて直子はふと口をつぐみ、そのまま歩きつづけた。
いろんな思いが彼女の頭の中でぐるぐるとまわっていることがわかっていたので、僕も口をはさまずにそのとなりを黙って歩いた。

“由于不能那么做!
那样太过份了。
那是——”话才到嘴边,直子溘然又吞了回去,然后连续踱步。
我知道现在她的脑筋里有太多动机正在团团转着,因此我也不开口,只默默地走在她身边。

「それは――正しくないことだからよ、あなたにとっても私にとっても」とずいぶんあとで彼女はそうつづけた。

“那是——错的,对你对我都是。
”久久,她才接着说道。

「どんな風に正しくないんだろう?」と僕は静かな声で訊ねてみた。

「だって誰かが誰かをずっと永遠に守りつづけるなんて、そんなこと不可能だからよ。
ねえ、もしよ、もし私があなたと結婚したとするわよね。
あなたは会社につとめるわね。
するとあなたが会社に行ってるあいだいったい誰が私を守ってくれるの?あなたが出張に行っているあいだいったい誰が私を守ってくれるの?私は去世ぬまであなたにくっついてまわってるの? ねえ、そんなの対等じゃないじゃない。
そんなの人間関係とも呼べないでしょう? そしてあなたはいつか私にうんざりするのよ。
俺の人生っていったい何だったんだ?この女のおもりをするだけのことなのかって。
私そんなの嫌よ。
それでは私の抱えている問題は解決したことにはならないのよ」

「これが生平つづくわけじゃないんだ」と僕は彼女の背中に手をあてて、言った。
「いつか終る。
終ったところで僕らはもう一度考えなおせばいい。
これからどうしようかってね。
そのときはあるいは君の方が僕を助けてくれるかもしれない。
僕らは収支決算表を睨んで生きているわけじゃない。
もし君が僕を今必要としているなら僕を使えばいいんだ。
そうだろ?どうしてそんなに固く物事を考えるんだよ?ねえ、もっと肩のカを抜きなよ。
肩にカが入ってるから、そんな風に構えて物事を見ちゃうんだ。
肩のカを抜けばもっと体が軽くなるよ」

「どうしてそんなこと言うの?」と直子はおそろしく乾いた声で言った。

彼女の声を聞いて、僕は自分が何か間違ったことを口にしたらしいなと思った。

「どうしてよ?」と直子はじっと足もとの地面を見つめながら言った。
「肩のカを抜けば体が軽くなることくらい私にもわかっているわよ。
そんなこと言ってもらったって何の役にも立たないのよ。
ねえ、いい?もし私が今肩の力を抜いたら、私バラバラになっちゃうのよ。
私は昔からこういう風にしてしか生きてこなかったし、今でもそういう風にしてしか生きていけないのよ。
一度力を抜いたらもうもとには戻れないのよ。

“怎么个错法?”我用沉着的声音问道。
“由于没有谁能够永久保护另一个人呀!
那是不可能的。
听着,假设说我和你结了婚好了!
你会上班吧?那你去上班的时候谁来保护我呢?难道我能随着你一辈子吗?你看这公正吗?这还能叫做人际关系吗?而且总有一天你一定会以为腻了。
我的人生到底在干啥呀?当这女人的秤砣吗?到时候你一定会这么自问的。
我不喜好这样!
这样根本也办理不了我的问题呀!
” “总不会腻一辈子吧?”我将手贴在她的背上说道。
“总会告一段落吧?等到告一段落,我们都得要重新考虑,今后该怎么做。
到那个时候说不定还是你反过来帮我呢!
我们须要随时盯着进出清算单过活吗,如果你现在须要我,你大可好好利用,不是吗?为什么非得这么固执不可呢?放松自已吧!
你若是不肯放松,到头来就会变得硬梆梆的。
放松自己,你会痛快酣畅些的。
” “你为什么这么说?”直子的声音听来既恐怖又冷漠,我直以为自己彷佛是说错话了。
“为什么?”直子盯着地面说道。
“放松自己会以为痛快酣畅些,这一点我也知道呀!
你说这些话有什么用呢?听着,如果我现在放松自己,我会全体垮掉!
从前我便是这一套生活办法,今后也只能这样活下去!
我只要放松自己一次,就无法再恢复原状了!

私はバラバラになって――どこかに吹きとばされてしまうのよ。
どうしてそれがわからないの?それがわからないで、どうして私の面倒をみるなんて言うことができるの?」

僕は黙っていた。

「私はあなたが考えているよりずっと深く混乱しているのよ。
暗くて、冷たくて、混乱していて……ねえ、どうしてあなたあのとき私と寝たりしたのよ?どうして私を放っておいてくれなかったのよ?」

我々はひどくしんとした松林の中を歩いていた。
道の上には夏の終りに去世んだ蝉の去世骸がからからに乾いてちらばっていて、それが靴の下でばりばりという音を立てた。
僕と直子はまるで探しものでもしているみたいに、地面を見ながらゆっくりとその松林の中の道を歩いた。

「ごめんなさい」と直子は言って僕の腕をやさしく握った。
そして何度か首を振った。
「あなたを傷つけるつもりはなかったの。
私の言ったこと気にしないでね。
本当にごめんなさい。
私はただ自分に腹を立てていただけなの」

我会垮掉,然后随风散去。
你难道不能理解吗,连这些你都不能理解,还谈什么保护我?“ 我默不吭声。
”我比你所想像的要繁芜多了。
阴郁、冷淡、繁芜……你那时候为什么会和我上床?你别理我就好了。
“ 我们在一片悄然无声的松林里踱着步。
小径上散见些去世于夏末的蝉的骸,干干痒痒的。
踩在脚下便发出哔哩啪啦的声响。
我和直子像是在找寻什么似的,一边盯着地面,一边垂垂地在小径上踱步。
”对不起!
“直子说道,然后轻轻地握住我的手腕,摇了摇头。
”我并不想侵害你,别在意我说的。
真的抱歉!
我只是在生自己的气而已。

「たぶん僕は君のことをまだ本当には理解してないんだと思う」と僕は言った。
「僕は頭の良い人間じゃないし、物事を理解するのに時間がかかる。
でももし時間さえあれば僕は君のことをきちんと理解するし、そうなれば僕は天下中の誰よりもきちんと理解できると思う」

“我想大概是由于我还不算真正地理解你吧!
”我说。

“我不顶聪明,想理解某些事物都得要花韶光才行。
不过只要有韶光,我就可以好好地理解你,我可以比谁都理解你。

僕らはそこで立ちどまって静けさの中で耳を澄ませ、僕は靴の先で蝉の去世骸や松ぼっくりを転がしたり、松の枝のあいだから見える空を見あげたりしていた。
直子は上着のポケットに両手をつっこんで何を見るともなくじっと考えごとをしていた。

我们伫立在那里,倾耳聆听这一片宁谧。
我用鞋尖去踢蝉的残骸和松枝,从树隙间仰望天空。
直子则将两手插进上衣口袋里,一动不动地陷入沈思。

「ねえワタナベ君、私のこと好き?」

“喂!
渡边,你喜不喜好我?”

「もちろん」と僕は答えた。

“当然喜好!
”我答道。

「じゃあ私のおねがいをふたつ聞いてくれる?」

“那我可不可以拜托你两件事?”

「みっつ聞くよ」

“三件都可以!

直子は笑って首を振った。
「ふたつでいいのよ。
ふたつで十分。
ひとつはね、あなたがこうして会いに来てくれたことに対して私はすごく感謝してるんだということをわかってはしいの。
とても嬉しいし、とても――救われるのよ。
もしたとえそう見えなかったとしても、そうなのよ」

直子笑着摇头。
“两件就可以了。
两件就够了!
第一件,我希望你明白,我非常感激你能够到这儿来和我碰面。
我非常高兴,算是——得救了。
大概你看不出来,但这是事实。

「また会いにくるよ」と僕は言った。
「もうひとつは?」

“我还会再来呀!
”我说。
“那其余一件事呢?”

「私のことを覚えていてほしいの。
私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことをずっと覚えていてくれる?」

“我希望你永久记得我。
永久记得我这个人,我曾经在你身边。

「もちろんずっと覚えているよ」と僕は答えた。

“我当然会永久记得。
”我答道。

彼女はそのまま何も言わずに先に立って歩きはじめた。
梢を抜けてくる秋の光が彼女の上着の肩の上でちらちらと踊っていた。
また犬の声が聞こえたが、それは前よりいくぶん我々の方に近づいているように思えた。
直子は小さな丘のように盛りあがったところを上り、松林の外に出て、なだらかな坂を足速に下った。
僕はその二、三歩あとをついて歩いた。

她一声不响地走到前头去。
透过树梢射进来的秋日阳光,在她的肩头上熠熠跳跃着。
我又听到了狗叫声,彷佛比刚才更近了。
直子爬上一处如小丘般的坡,走出松林,然后快步跑下坡去。
我跟在她身后约两、三步的间隔。

「こっちにおいでよ。
そのへんに井戸があるかもしれないよ」と僕は彼女の背中に声をかけた。

“到这儿来啦!
那口井说不定就在那边哟!
”我在她背后喊。

直子は立ちどまってにっこりと笑い、僕の腕をそっとつかんだ。
そして我々は残りの道を二人で並んで歩いた。

直子于是站住脚,一壁笑一壁轻轻地捉住我的手腕。
我们便并肩走完剩下的路。

「本当にいつまでも私のことを忘れないでいてくれる?」と彼女は小さな囁くような声で訊ねた。

“你真的会永久记得我?”她轻声问道。

「いつまでも忘れないさ」と僕は言った。
「君のことを忘れられるわけがないよ」

“永久记得,”我说道。
“我怎么忘得了?”

それでも記憶は確実に遠ざかっていくし、僕はあまりに多くのことを既に忘れてしまった。
こぅして記憶を辿りながら文章を書いていると、僕はときどきひどく不安な気持になってしまう。
ひょっとして自分はいちばん肝心な部分の記憶を失落ってしまっているんじゃないかとふと思うからだ。
僕の体の中に記憶の辺土とでも呼ぶべき暗い場所があって、大事な記憶は全部そこにつもってやわらかい泥と化してしまっているのではあるまいか、と。

只管如此,这份影象的确是已经离我远去,我已经忘掉太多事了。
像现在,一边回顾一边写,就常会教我陷入一种不安的感情。
由于我担心自己大概会将最主要的影象遗漏掉。
说不定,这回顾早已在我体内的哪方惨淡的“影象边陲”里化作春泥了呢!

しかし何はともあれ、今のところはそれが僕の手に入れられるものの全てなのだ。
既に薄らいでしまい、そして今も刻一刻と薄らいでいくその不完备な記憶をしっかりと胸に抱きかかえ、骨でもしゃぶるような気持で僕はこの文章を書きつづけている。
直子との約束を守るためにはこうする以外に何の方法もないのだ。

但同无论如何,现在我所要写的,便是我所有的影象了。
我紧拥着这已然模糊,而且愈来愈模糊的不完全的影象,敲骨吸髓,尽我所能地写这篇小说。
为了信守对直子的承诺,除了这么做,我没有别的办法。

もっと昔、僕がまだ若く、その記憶がずっと鮮明だったころ、僕は直子について書いてみようと試みたことが何度かある。
でもそのときは一行たりとも書くことができなかった。
その最初の一行さえ出てくれば、あとは何もかもすらすらと書いてしまえるだろうということはよくわかっていたのだけれど、その一行がどうしても出てこなかったのだ。
全てがあまりにもくっきりとしすぎていて、どこから手をつければいいのかがわからなかったのだ。
あまりにも克明な地図が、克明にすぎて時として役に立たないのと同じことだ。
でも今はわかる。
結局のところ―と僕は思う―文章という不完备な容器に盛ることができるのは不完备な記憶や不完备な想いでしかないのだ。
そして直子に関する記憶が僕の中で薄らいでいけばいくほど、僕はより深く彼女を理解することができるようになったと思う。
何故彼女が僕に向って「私を忘れないで」と頼んだのか、その情由も今の僕にはわかる。
もちろん直子は知っていたのだ。
僕の中で彼女に関する記憶がいつか薄らいでいくであろうということを。
だからこそ彼女は僕に向って訴えかけねばならなかったのだ。
「私のことをいつまでも忘れないで。
私が存在していたことを覚えていて」と。
更早以前,在我还算年轻,影象仍旧光鲜的时候,我曾有几次试着想写直子。
可是当时我却一行也写不下去。
我当然明白,只要能写出冒头的一行笔墨,便能顺畅地将她写完,但不管怎么努力,第一行便是写不出来。
统统是如此光鲜,教我不知从作甚起。
这就好比说,一张画得太详细的舆图有时反而派不上用场一样。
不过,现在我总算懂了。
原来——我想——只有这些不完全的影象、不完全的思念,才能装进小说这个不完全的容器里。
而且,有关直子的影象在我脑中愈是模糊,我便愈能理解她。
我现在也想通了她叫我不要忘却她的道理了。
直子当然也知道。
她知道总有一天,我脑中的影象会逐渐褪色。
也因此,她非得几次再三打发不可。
“我希望你永久记得我,永久记得我这个人。

そう考えると僕はたまらなく哀しい。
何故なら直子は僕のことを愛してさえいなかったからだ。

想到这儿,我就以为非常难过。
由于直子从来未曾爱过我。

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